2007-12-30

バスの後ろの窓側の席にて

バスで旅するとき、私は決まって、後ろの窓側に席を探す。

そういうバスの旅は、たいてい夜。
思えば、明るいうちは列車なり飛行機なりが精を出している分、
バスは、それらが静かになる夜のときでしか選べない、特別な選択肢なのかも知れない。

夜を行くバスの旅は静か。
たいていの場合は一人だし、友達と一緒のときも、向こうは昼間のあれこれで疲れ果てて寝ているか、
長い揺れに身を任せるうちに、話のネタがなくなり、黙り込んでしまうかのどっちかだ。

そういうときに限って、不思議と頭の方は冴えてばかりいる。
思考の行き場もなくなり、バスの中に目をやると、バス、という空間に気づく。
それは普段殆ど気づくことのない「空間」という感覚を意識する瞬間。

列を成しているシートと、それに挟まれて思い思いの体勢で休む人々。
照明を落とされた暗さの中に、彼らの姿がうっすらと浮かび上がる。
その全てを乗せて、バスは一つの空間となり、ハイウェイを走ってゆく。

対向車線から向かってくる乗用車、じりじりとレースから脱落していくトラック、
道端のガードレール、信号、とその先に広がる荒地、樹木。
往年の映画の中で見るようなベタでぎこちない動きではないけれど、空間に触れては去っていくように、動いている。

けれど、バスの中は空気までもか、押し黙ったみたいに、動きがない。
きっと、何一つ動かないまま、この空間は、何百キロもの目的地へと、黙々と続いていくのだろう。
そこまで感覚がたどり着いたとき、私は恐れではなく、戦慄を覚えた。

逃げるようにして窓の外をのぞくと、
ああ、この空間はこのバスの中だけではなかったんだ、と胸を撫で下ろす。
月が、月が、いつまでもそこに居た。

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